原点回帰③(道は自らの手で切り拓け)

さて、2日間の2回にわたって私のボートライフとでも言いましょうか、過去を振り返ってまいりました。もちろんここに書き切れていないストーリーもいくつかあるのですが、それはまたの機会に触れることもあるでしょう。

また、母校の卒業生で今尚、ボートの指導等に携わる者は知る限りではいないと発言しましたが、実はつい昨年までは1つ上の先輩、つまり高校3冠を成し遂げた偉大な世代の一人がとある大学の監督を務められていました。

この先輩には本当にお世話になりっぱなしで、今でも時折連絡をもらいます。ついこの間も自身が個人で所有するシングル艇を譲渡いただけると連絡があり、ありがたく譲り受けました。近年、艇に名前を付けることにしていますからこれこそ所縁の名前を考えたいと思っています。本当にいつも感謝の気持ちしかありません。

さて、本題です。なぜここまで高校自体、特にインターハイについて触れてきたかと言えば、いよいよ高校生の推薦に向けた動きが活発になってくる時期だからです。もちろんこの後、国体を残しますが、本来はインターハイの戦績を経て、大学推薦にチャレンジする高校生も多いことでしょう。

私立の大学に至ってはもう既にセレクション方式で内定を出しているケースも多々あることでしょうし、有力選手は大方目途がついているのかもしれませんね。各大学の事情は当然私も知る由もありません。ただ、本学についてはこれまでの経験からいくつか語れることはあります。

先日、実はホームページを通じて、とある高校のボート部員から問い合わせをいただきました。内容はスポーツ推薦について、そして、部の活動状況について教えてくださいというものです。この問い合わせ内容からどこまでを求めているか、正直読み取れなかったので、一方的にはなりますが、ありとあらゆる内容を長文で送りました。その後、返信はありません笑

とは言え、事実を曲げてまで伝えることはせず、ありのままを重視したつもりです。その内容について、少し触れさせていただきます。

練習の状況については週4日の乗艇とパーソナルトレーニングが別日にあること、また現在のような夏期や春季の長期休みの際は10モーションを行い、いずれも通いであることを伝えました。これは他大学に比べて練習量が少ないことが楽だと伝わることが真意ではなく、少ない練習量でどうその差を埋めることができるかを考え、行動してもらうことに重きを置いているということです。

またこうした背景には部活だけ、ボート漬けになってほしくないという思いから、学業やアルバイト、そしてプライベートの時間を持たせることを重要と考えているからで、自主性を重んじ、4年間という貴重な大学生活をより有意義なものにしてほしい、そんな思いを伝えました。

そもそも本学の推薦制度は、戸田で艇庫を所有して並び立つ他大学のように確約された推薦制度ではありません。もちろん確約かどうか事実として把握しておらず、想像の範疇ではありますが、大学スポーツ界にはそういった制度、風習は存在していると思います。

これについて、監督就任後、いや、自身が現役時代にも頭を悩ませてきました。私の入学後、なんとか経験者を獲得したいと当時の監督であった現OB会長が各高校に働きかけてくれていました。ちょうど九州の高校で全国選抜で5位という戦績を残した学生が興味を持ってくれたようで、推薦合格を期待しましたが、残念ながら不合格に終わりました。

その結果を知って、やはり期待が大きかっただけに二人で愕然としたのを覚えています。それ以降、もちろんそれ以前にもかなりの確率で不合格になることから高校ボート界において本学は敬遠されているのが恐らく事実なのでしょう。

それでも今はその考えについてネガティブに捉えてはいません。それはこうした制度の中でもその事実を高校生に伝え、チャレンジしてもらう部活動もあるということをある人に教えてもらったからです。

数年前、大学主催のコーチズセッションにオンラインで参加した際に某部の指導者と知り合い、その後、メールで何度かやり取りをさせていただきました。その人から実にたくさんのことを学びました。今の当部のコンセプトとなっている〝青学らしさ〟これはまさに彼女からの学びです。

〝青学らしさ〟は少し軽いイメージという印象を持っていましたが、実はそれはそれで個性であること、そして必ずしもマイナスに働くわけではなく、こうしたイメージだからこそ人を惹きつける魅力を持ち合わせているということを再認識したのです。

また、もう一つの教えというのが他大学のような確約された制度でなくとも、本学に入学し、ここでプレーしたい、活動したいという学生であれば、それを勝ち取るだけのチャレンジ精神で結果を残すので、目先の強化のために勉強も習慣もない学生をとるなんてナンセンスだ、というものでした。当たり前のことなのになぜかはっと我に返ったような、衝撃をくらったのは言うまでもありません。

例えばインターハイのような会場に赴いて、実際に現地で勧誘活動をしたとしても絶対!と約束できないことを引け目に感じてしまいますが、そもそも受験というものは世の中の高校生のほとんどが確約などない中でつかみとるわけで、決して確約を出さないことがおかしいわけではないのだと彼女は言いました。

むしろスポーツ界だけにどっぷり生きてきた人間の感覚の方がずれてきているだけで、決してこの制度が間違っているわけではなく、きちんとした指導者が本来こうしたことを前提に考え、本学の受験の仕組みや厳しさを覚悟し、理解してくれる方が入学してくる学生の伸びしろも高いものだということです。

こうした話しを聞いて以降、自分の考えを改め、今は同じようにありのままを伝えています。ですから今回問い合わせのあった学生には当部の状況とともに、経験者であることが当然歓迎でもあると同時に本学でしか学べないボート観と言いますか、ボートというツールを使って何を得て学び、ここを巣立っていくか、それこそが重要なのだと伝えています。

もちろん決して他校の制度やスポーツ界の制度そのものを否定する気もありません。それでも結果だけに固執するのではなく、過程を大事に、自らが決断し、実行するという本来の大学生の生活を送ってもらいたい、そのための一歩と考えるならこうした推薦制度や艇庫がない環境を嘆くより、ポジティブに捉えていきたい、そんな思いを持つようになりました。

そして今は経験者がいなくとも自らで考え、行動し、青学らしさという看板を背負い、チャレンジしている学生らを大変心強くも、たくましくも感じています。ですから経験者が来ることでの相乗効果はあるものの経験者で固めて結果を残す、そんな考えは毛頭ないのです。

この10年の私の監督業において不甲斐ない、歯がゆさ、不満などから推薦はどうなんだ、経験者ありきという考えを安易に口にされる方もいました。制度そのものを言い訳に向き合いもせず、迷いのあった数年前と比べ、彼女との話の中でそこに見切りをつけ、一から育てていくことの楽しさと期待を持っているのが今なのです。

もちろん今回の問い合わせのように当部に興味を持ってくれるのは大変嬉しいことです。だからこそありのままを伝え、本人がどう捉え、行動していくか、そこは委ねたいという思いなのです。

批判めいたことは書くつもりはありません。ただ、ボートしかしない生活を送らせて、その先、つまり大学を卒業して何が残るのでしょうか。高校時代に優秀だった選手は数多くいます。それでも大学で更なる成長を見せたのは僅かだと思います。むしろ近年のオリンピックに出場した選手というのは大学から競技を始めた選手や高校時代にはむしろそこまでの輝かしい戦績を残していない選手なのではないでしょうか。

これは勝つための方法、そしてその教えそのものが違うのだと私自身は思っています。目先の結果やこの競技だけの枠で考えるのではなく、もっと先の将来やスポーツを通じて、学んだことを生かせるために何を教えていくか、それこそが指導者たるものの考えなのではないでしょうか。もちろん自分は何一つ成しえていない未熟な指導者であると自覚しています。だからこそ理想は追い求めています。

なぜこのような投稿に至ったかはある人の相談?というより悩みを聞いてからです。人物が特定できるような発言は避けますが、指導者の考え、そしてまだ考えが定まり切らない高校生に選択を与える、考えさせるきっかけを作ることがいかに重要か、そう感じているからこそこうした投稿をさせていただきました。

何度も言いますが、少なくとも私は私なりに考え抜き、この大学を選んだからこその今です。それが正しかったと思えるからこそ、正確な情報を伝え、これからも私利私欲に溺れることなく、互いがWinーWinとなるような関係を構築していければと思っています。

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