実りある収穫

二日つづいての秋晴れは清々しいものの、昨日の結果と今日への不安を考えればコースへの足取りは重かったのが正直なところです。それでもこの日は風も穏やかで、やや順風。ボートのレースとしては絶好のコンディションだったわけですから、昨日できなかったことを何か一つでも。そんな思いで艇庫に足を踏み入れました。

先に到着していた鏑木、淡路は談笑しながら、少しは昨日のことを引きずっていながらも気持ちを切り替えている様子がうかがえました。昨日同様にエルゴアップに行き、漕ぎを見ていても、こちらがおや?と思うほど、妙に落ち着いた姿で良い漕ぎをする淡路の姿がそこにはありました。

正直、彼は乗艇よりエルゴが下手に見える一風変わった漕ぎをします。特に初の2000mの測定でも最後はほぼ上半身だけで、この大会の基準タイムを達成したわけですから持っているポテンシャルはやはり高いのでしょう。そんな彼がリラックスした姿勢で、下半身を主体に漕ぎ込んでいる姿を見るとこの漕ぎさえできれば昨日のような結果にはならないだろうと改めて確信もしたのです。

二人も今日やることははっきりと決まっている、そう自信を深めており、これはコースアップで漕ぎ続ける彼の姿を見てもやはり一目瞭然でした。昨日より明らかによくなっていること、そして何より吹っ切れた表情、すべてがプラスに働いている今の状況に1日でこうも変わるものか、と少し驚かされもしました。

正直、今回の全日本新人において、1年生の未経験者が、ましてやシングルスカルを一ヶ月弱の練習で挑んだ選手は彼一人でしょう。それでも出ることで得られるものがあると後押ししてくれた鏑木の発言はきっと実現する、そう思えるくらいにレース前から妙な安心感すらありました。昨日のことを考えると本当に不思議なことが起きている、でもますます期待は膨らみました。

そして昨日と同様に結局はスタート2分前になんとか発艇台についたわけですが、妙にどっしりと構えているようにすらこちらには映るのです。そして静かにスタートしたこの日のレース。スタート練習などこれまでほぼなかったに等しいわけですが、まったく昨日とは違う思い切りのいいスタートを見せ、小気味の良いリズムで食らいついていき、目標とした500mの通過は明らかに昨日より早いタイムだと確信するのです。そしてそこからは想像していた通り、審判艇が容赦無い波を送りつけてくるわけですが、それでも食らうまいとこちらも練習時以上のパドルで必死で漕ぎ続ける淡路の姿がありました。

なんとか1000mまではこのままと思っていたものの、結局はそれより前に波に襲われながらも当の本人はそれに動じることなく、本来の漕ぎを維持し、1500m通過、そして残り250mではスパートを入れるオマケ付きで、今できる精一杯のパフォーマンスを見せてくれたのです。これには陸で伴走していた私と鏑木も驚きながら、嬉しくもあり、勝負にすら参加させてもらえない他艇との差など気にすることなく、この大会へ出漕したことの大きな成果をここでようやく感じたのです。

ゴール後、もどってきた淡路自身も昨日とは打って変わって、晴れやかな表情がすべてを物語ってもいたのです。これこそがまさに追い求めいていたもので、同時に一ヶ月後のレースでの楽しみは増すばかりで、勝ちに行くために何をしていくか、そんな話をするようにもなっていたのですから、不思議なものです。目の前の壁を乗り越え、未来が見えた時、そこには必ず希望があるものなのです。

そして同じように昨日の敗戦ではない別のショックを受けていたダブルの鈴木、吉澤ですが、こちらもこの日は見事に腹を括っていました。自分達が考えていた以上のスタートが必要であること、責めないとレースにすら参加させてもらえないこと、これに尽きると言わんばかりの気持ちがアップの時から感じ取れるわけですから、これは見ている我々ももう大丈夫だとこの時点ではっきりしていました。

実際にレースにおいても組み合わせ上、仕方なく1艇速いクルーはいたものの、昨日で10秒の差が付けられていたもう1艇にはスタートこそ出られたものの、250m地点では半艇身ほどの位置につけ、彼らがこれまで練習してきたレートに頼らないコンスタントの真骨頂をここから見せてくれるのです。それは500m通過、そして1000m通過した時点でも二人より3、4枚高いレートで漕ぎ続けるライバル艇を射程圏に捉えながら、まったく落ちる気配もなく、食らいついていくわけですから、当然、昨日のような波の妨害もまったくありませんでした。

そして今までの彼らであれば1000mを通過したあたりで地力の差が出ることを心配したかもしれません。ですが、これまでそれだけの練習をしてきたからこそ最後までこれを維持できる、これこそがこの一ヶ月の成長なのだと見ていて手に取るようにわかる快漕でもあったのです。そして徐々に水を開けられながらも最後はスパートで1艇身差まで再び追い詰めフィニッシュしたときは二人とも所謂ローアウトの状態だったでしょう。それでもこれだけのパフォーマンスを1日で変えてくるというのは本当に逞しくもありました。

結果、シングルの淡路、そしてダブルの鈴木、吉澤ともに昨日から大幅なタイムの短縮を見せてくれたのです。きっと傍目からみれば予選、敗者復活戦での敗戦、つまりイチコロ敗コロというものです。JARAの記録から見てもこのレースでの成果はきっと知り得ることはないでしょう。最近では大きな変化もなく、このブログも少し疎かになりがちなのは恐らく読まれている方もすでにお見通しのことだと思います笑

それでもこの二日間で、これだけ中身の濃いレースであったのですから記録だけで語るのではなく、生き証人のごとく、こうしてきちんとこのような場で伝えていかねばいけません。それこそが私の使命でもあるのでしょうから。そして、今大会に出漕したことが、実りある収穫であったことと、勝つこと以外にも学ぶことがこれだけあるのだということを。(オマケへ続く)

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